すし

冒頭文

東京の下町と山の手の境い目といったような、ひどく坂や崖(がけ)の多い街がある。 表通りの繁華から折れ曲って来たものには、別天地の感じを与える。 つまり表通りや新道路の繁華な刺戟(しげき)に疲れた人々が、時々、刺戟を外(は)ずして気分を転換する為めに紛(まぎ)れ込むようなちょっとした街筋—— 福ずしの店のあるところは、この町でも一ばん低まったところで、二階建の銅張りの店

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸」1939(昭和14)年1月号

底本

  • 岡本かの子全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1993(平成5)年8月24日