みょうなはなし
妙な話

冒頭文

ある冬の夜(よ)、私(わたし)は旧友の村上(むらかみ)と一しょに、銀座(ぎんざ)通りを歩いていた。 「この間千枝子(ちえこ)から手紙が来たっけ。君にもよろしくと云う事だった。」 村上はふと思い出したように、今は佐世保(させほ)に住んでいる妹の消息を話題にした。 「千枝子さんも健在(たっしゃ)だろうね。」 「ああ、この頃はずっと達者のようだ。あいつも東京にいる時分は、随分(ずいぶ

文字遣い

新字新仮名

初出

「現代」1921(大正10)年1月

底本

  • 芥川龍之介全集4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年1月27日