なんきんのキリスト |
南京の基督 |
冒頭文
一 或秋の夜半であつた。南京(ナンキン)奇望街(きばうがい)の或家の一間には、色の蒼(あを)ざめた支那の少女が一人、古びた卓(テエブル)の上に頬杖をついて、盆に入れた西瓜(すゐくわ)の種を退屈さうに噛み破つてゐた。 卓(テエブル)の上には置きランプが、うす暗い光を放つてゐた。その光は部屋の中を明くすると云ふよりも、寧(むし)ろ一層陰欝な効果を与へるのに力があつた。壁紙の剥(は)げか
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論」1920(大正9)年7月
底本
- 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
- 筑摩書房
- 1968(昭和43)年8月25日