ねんまつのいちにち
年末の一日

冒頭文

………僕は何でも雑木の生えた、寂しい崖(がけ)の上を歩いて行った。崖の下はすぐに沼になっていた。その又沼の岸寄りには水鳥が二羽泳いでいた。どちらも薄い苔(こけ)の生えた石の色に近い水鳥だった。僕は格別その水鳥に珍しい感じは持たなかった。が、余り翼などの鮮かに見えるのは無気味だった。—— ——僕はこう言う夢の中からがたがた言う音に目をさました。それは書斎と鍵の手になった座敷の硝子戸(ガラス

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1926(大正15)年1月

底本

  • 昭和文学全集 第1巻
  • 小学館
  • 1987(昭和62)年5月1日