ねずみこぞうじろきち
鼠小僧次郎吉

冒頭文

一 或初秋の日暮であつた。 汐留(しほどめ)の船宿、伊豆屋の表二階には、遊び人らしい二人の男が、さつきから差し向ひで、頻(しきり)に献酬(けんしう)を重ねてゐた。 一人は色の浅黒い、小肥りに肥つた男で、形(かた)の如く結城(ゆふき)の単衣物(ひとへもの)に、八反の平ぐけを締めたのが、上に羽織つた古渡(こわた)り唐桟(たうざん)の半天と一しよに、その苦みばしつた男ぶりを、一

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論」1920(大正9)年1月

底本

  • 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年8月25日