にわ

冒頭文

上 それはこの宿(しゆく)の本陣に当る、中村と云ふ旧家の庭だつた。 庭は御維新後十年ばかりの間は、どうにか旧態を保つてゐた。瓢箪(へうたん)なりの池も澄んでゐれば、築山(つきやま)の松の枝もしだれてゐた。栖鶴軒(せいかくけん)、洗心亭(せんしんてい)、——さう云ふ四阿(あづまや)も残つてゐた。池の窮(きは)まる裏山の崖には、白々(しろじろ)と滝も落ち続けてゐた。和(かず)の宮(みや

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論」1922(大正11)年7月

底本

  • 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年8月25日