「ケルトのはくめい」より |
「ケルトの薄明」より |
冒頭文
Ⅰ 宝石を食ふもの 平俗な名利の念を離れて、暫く人事の匆忙を忘れる時、自分は時として目ざめたるまゝの夢を見る事がある。或は模糊たる、影の如き夢を見る。或は歴々として、我足下の大地の如く、個体の面目を備へたる夢を見る。其模糊たると、歴々たるとを問はず、夢は常に其赴くが儘に赴いて、我意力は之に対して殆ど其一劃を変ずるの権能すらも有してゐない。夢は夢自らの意志を持つて居る。そして彼方此方と揺曳(え
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新思潮 第一巻第三号」1914(大正3)年4月1日。初出時の署名は、柳川隆之介。
底本
- 芥川龍之介全集 第一巻
- 岩波書店
- 1995(平成7)年11月8日