よこすかしょうけい
横須賀小景

冒頭文

カフエ 僕は或カフエの隅に半熟の卵を食べてゐた。するとぼんやりした人が一人、僕のテエブルに腰をおろした。僕は驚いてその人をながめた。その人は妙にどろりとした、薄い生海苔(なまのり)の洋服を着てゐた。       虹 僕はいつも煤(すす)の降る工廠(こうしやう)の裏を歩いてゐた。どんより曇つた工廠の空には虹が一すぢ消えかかつてゐた。僕は踵(かかと)を擡(もた)げるやうにし、ちよつと

文字遣い

新字旧仮名

初出

「驢馬」1926(大正15)年5月

底本

  • 芥川龍之介全集 第十三巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年11月8日