にょたい
女体

冒頭文

楊某(ようぼう)と云う支那人が、ある夏の夜、あまり蒸暑いのに眼がさめて、頬杖をつきながら腹んばいになって、とりとめのない妄想(もうぞう)に耽っていると、ふと一匹の虱(しらみ)が寝床の縁(ふち)を這っているのに気がついた。部屋の中にともした、うす暗い灯(ひ)の光で、虱は小さな背中を銀の粉(こな)のように光らせながら、隣に寝ている細君の肩を目がけて、もずもず這って行くらしい。細君は、裸のまま、さっきか

文字遣い

新字新仮名

初出

「帝国文学」1917(大正6)年10月

底本

  • 芥川龍之介全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年10月28日