ながさき
長崎

冒頭文

菱形の凧(たこ)。サント・モンタニの空に揚つた凧。うらうらと幾つも漂つた凧。 路ばたに商ふ夏蜜柑やバナナ。敷石の日ざしに火照(ほて)るけはひ。町一ぱいに飛ぶ燕。 丸山の廓の見返り柳。 運河には石の眼鏡橋。橋には往来の麦稈帽子。——忽(たちま)ち泳いで来る家鴨(あひる)の一むれ。白白と日に照つた家鴨の一むれ。 南京寺の石段の蜥蜴(とかげ)。 中華民国

文字遣い

新字旧仮名

初出

「婦女界」1922(大正11)年6月

底本

  • 芥川龍之介全集 第九巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年7月8日発行