雌蜘蛛(めぐも)は真夏の日の光を浴びたまま、紅い庚申薔薇(こうしんばら)の花の底に、じっと何か考えていた。 すると空に翅音(はおと)がして、たちまち一匹の蜜蜂が、なぐれるように薔薇の花へ下りた。蜘蛛(くも)は咄嗟(とっさ)に眼を挙げた。ひっそりした真昼の空気の中には、まだ蜂(はち)の翅音の名残(なご)りが、かすかな波動を残していた。 雌蜘蛛はいつか音もなく、薔薇の花の底から動き