しろへびのし |
白蛇の死 |
冒頭文
浅草寺(せんそうじ)の十二時の鐘の音を聞いたのはもう半時(はんとき)前の事、春の夜は闌(た)けて甘く悩(なやま)しく睡っていた。ただ一つ濃い闇を四角に仕切ってポカッと起きているのは、厚い煉瓦塀(れんがべい)をくりぬいた変電所の窓で、内部(なか)には瓦斯(ガス)タンクの群像のような油入(あぶらいり)変圧器が、ウウウーンと単調な音を立てていた。真白な大理石の配電盤がパイロット・ランプの赤や青の光を浮べ
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」博文館、1929(昭和4)年6月号
底本
- 海野十三全集 第1巻 遺言状放送
- 三一書房
- 1990(平成2)年10月15日