さつじんのはて |
殺人の涯 |
冒頭文
「とうとう女房を殺してしまった」 私は尚(なお)も液体を掻(か)き廻しながら、独り言を云った。 大きな金属製の桶(おけ)に、その白い液体が入っていた。桶の下は電熱で温められている。ちょっとでも、手を憩(やす)める遑(いとま)はない。白い液体は絶えずグルグルと渦を巻いて掻き廻わされていなければならない。液体は白くなって来たが、もっともっと白くならなければならないのだ。まだまだ掻き廻わ
文字遣い
新字新仮名
初出
「読書趣味」1933(昭和8)年10月創刊号
底本
- 海野十三全集 第1巻 遺言状放送
- 三一書房
- 1990(平成2)年10月15日