1 銀座の舗道(ほどう)から、足を踏みはずしてタッタ百メートルばかり行くと、そこに吃驚(びっくり)するほどの見窄(みすぼ)らしい門があった。 「おお、此処(ここ)だ——」 と辻永(つじなが)がステッキを揚(あ)げて、後から跟(つ)いてくる私に注意を与えた。 「ム——」 まるで地酒(じざけ)を作る田舎家(いなかや)についている形ばかりの門と選ぶところがなかった。