かきいろのかみふうせん
柿色の紙風船

冒頭文

「おや、ここに寝ていた患者さんは?」 と林檎(りんご)のように血色(けっしょく)のいい看護婦が叫んだ。彼女の突(つ)っ立(た)っている前には、一つの空ッぽの寝台(ベッド)があった。 「ねえ、あんた。知らない?」 彼女は、手近(てぢか)に居た青(あお)ン膨(ぶく)れの看護婦に訊(き)いた。 「あーら、あたし知らないわよ」 といって編物の手を停めると、グシャグシャにシーツ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1934(昭和9)年2月号

底本

  • 海野十三全集 第2巻 俘囚
  • 三一書房
  • 1991(平成3)年2月28日