はえ |
蠅 |
冒頭文
小春日和(こはるびより)の睡(ねむ)さったらない。白い壁をめぐらした四角い部屋の中に机を持ちこんで、ボンヤリと肘(ひじ)をついている。もう二時間あまりもこうやっている。身体がジクジクと発酵(はっこう)してきそうだ。 白い天井には、黒い蠅(はえ)が停っている。停っているがすこしも動かない。生きているのか、死んでいるのか、それとも木乃伊(ミイラ)になっているのか。 それにしても、蠅
文字遣い
新字新仮名
初出
「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号
底本
- 海野十三全集 第2巻 俘囚
- 三一書房
- 1991(平成3)年2月28日