おしの
おしの

冒頭文

ここは南蛮寺(なんばんじ)の堂内である。ふだんならばまだ硝子画(ガラスえ)の窓に日の光の当っている時分であろう。が、今日は梅雨曇(つゆぐも)りだけに、日の暮の暗さと変りはない。その中にただゴティック風の柱がぼんやり木の肌(はだ)を光らせながら、高だかとレクトリウムを守っている。それからずっと堂の奥に常燈明(じょうとうみょう)の油火(あぶらび)が一つ、龕(がん)の中に佇(たたず)んだ聖者の像を照らし

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1923(大正12)年4月

底本

  • 芥川龍之介全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年2月24日