きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛

冒頭文

逢(お)う魔(ま)が時刻(とき) 秋も十一月に入って、お天気はようやく崩(くず)れはじめた。今日も入日(いりひ)は姿を見せず、灰色の雲の垂(た)れ幕(まく)の向う側をしのびやかに落ちてゆくのであった。時折サラサラと吹いてくる風の音にも、どこかに吹雪(ふぶき)の小さな叫び声が交(まじ)っているように思われた。 いま東京丸(まる)ノ内(うち)のオアシス、日比谷(ひびや)公園の中にも、黄

文字遣い

新字新仮名

初出

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

底本

  • 海野十三全集 第2巻 俘囚
  • 三一書房
  • 1991(平成3)年2月28日