ぼしじょじょう |
母子叙情 |
冒頭文
かの女は、一足さきに玄関まえの庭に出て、主人逸作の出て来るのを待ち受けていた。 夕食ごろから静まりかけていた春のならいの激しい風は、もうぴったり納まって、ところどころ屑(くず)や葉を吹き溜(た)めた箇所だけに、狼藉(ろうぜき)の痕(あと)を残している。十坪程の表庭の草木は、硝子箱(ガラスばこ)の中の標本のように、くっきり茎目(くきめ)立って、一きわ明るい日暮れ前の光線に、形を截(き)り出
文字遣い
新字新仮名
初出
「文学界」1937(昭和12)年3月号
底本
- 昭和文学全集 第5巻
- 小学館
- 1986(昭和61)年12月1日