じっぽんのはり
十本の針

冒頭文

一 ある人々 わたしはこの世の中にある人々のあることを知っている。それらの人々は何ごとも直覚するとともに解剖してしまう。つまり一本の薔薇(ばら)の花はそれらの人々には美しいとともにひっきょう植物学の教科書中の薔薇科(しょうびか)の植物に見えるのである。現にその薔薇の花を折っている時でも。…… ただ直覚する人々はそれらの人々よりも幸福である。真面目(まじめ)と呼ばれる美徳の一つはそれ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1927(昭和2)年9月

底本

  • 或阿呆の一生・侏儒の言葉
  • 角川文庫、角川書店
  • 1969(昭和44)年9月30日