ろくのみやのひめぎみ
六の宮の姫君

冒頭文

一 六の宮の姫君の父は、古い宮腹(みやばら)の生れだつた。が、時勢にも遅れ勝ちな、昔気質(むかしかたぎ)の人だつたから、官も兵部大輔(ひやうぶのたいふ)より昇らなかつた。姫君はさう云ふ父母(ちちはは)と一しよに、六の宮のほとりにある、木高(こだか)い屋形(やかた)に住まつてゐた。六の宮の姫君と云ふのは、その土地の名前に拠(よ)つたのだつた。 父母は姫君を寵愛(ちようあい)した。しか

文字遣い

新字旧仮名

初出

「表現」1922(大正11)年8月

底本

  • 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年8月25日