ろうねん
老年

冒頭文

橋場(はしば)の玉川軒(ぎょくせんけん)と云(い)う茶式料理屋で、一中節(いっちゅうぶし)の順講があった。 朝からどんより曇っていたが、午(ひる)ごろにはとうとう雪になって、あかりがつく時分にはもう、庭の松に張ってある雪よけの縄(なわ)がたるむほどつもっていた。けれども、硝子(ガラス)戸と障子(しょうじ)とで、二重にしめきった部屋の中は、火鉢のほてりで、のぼせるくらいあたたかい。人の悪い

文字遣い

新字新仮名

初出

「新思潮」1914(大正3)年5月

底本

  • 芥川龍之介全集1
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年9月24日