ろじょう
路上

冒頭文

一 午砲(どん)を打つと同時に、ほとんど人影の見えなくなった大学の図書館(としょかん)は、三十分経(た)つか経たない内に、もうどこの机を見ても、荒方(あらかた)は閲覧人で埋(う)まってしまった。 机に向っているのは大抵(たいてい)大学生で、中には年輩の袴(はかま)羽織や背広も、二三人は交っていたらしい。それが広い空間を規則正しく塞(ふさ)いだ向うには、壁に嵌(は)めこんだ時計の下に

文字遣い

新字新仮名

初出

「大阪毎日新聞」1919(大正8)年6月30日~8月8日

底本

  • 芥川龍之介全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年12月1日