りゅう

冒頭文

一 宇治(うじ)の大納言隆国(だいなごんたかくに)「やれ、やれ、昼寝の夢が覚めて見れば、今日はまた一段と暑いようじゃ。あの松(まつ)ヶ枝(え)の藤(ふじ)の花さえ、ゆさりとさせるほどの風も吹かぬ。いつもは涼しゅう聞える泉の音も、どうやら油蝉の声にまぎれて、反(かえ)って暑苦しゅうなってしもうた。どれ、また童部(わらんべ)たちに煽(あお)いででも貰おうか。 「何、往来のものどもが集った?

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1919(大正8)年5月

底本

  • 芥川龍之介全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年12月1日