さむさ
寒さ

冒頭文

ある雪上(ゆきあが)りの午前だった。保吉(やすきち)は物理の教官室の椅子(いす)にストオヴの火を眺めていた。ストオヴの火は息をするように、とろとろと黄色(きいろ)に燃え上ったり、どす黒い灰燼(かいじん)に沈んだりした。それは室内に漂(ただよ)う寒さと戦いつづけている証拠だった。保吉はふと地球の外の宇宙的寒冷を想像しながら、赤あかと熱した石炭に何か同情に近いものを感じた。 「堀川(ほりかわ)君

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1924(大正13)年4月

底本

  • 芥川龍之介全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年2月24日