さる

冒頭文

私が、遠洋航海をすませて、やつと半玉(はんぎよく)(軍艦では、候補生の事をかう云ふのです)の年期も終らうと云ふ時でした。私の乗つてゐたAが、横須賀へ入港してから、三日目の午後、彼是(かれこれ)三時頃でしたらう。勢よく例の上陸員整列の喇叭(らつぱ)が鳴つたのです。確、右舷が上陸する順番になつてゐたと思ひますが、それが皆、上甲板へ整列したと思ふと、今度は、突然、総員集合の喇叭が鳴りました。勿論、唯事(

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新思潮」1916(大正5)年9月

底本

  • 芥川龍之介全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1995(平成7)年11月8日