あばばばば |
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冒頭文
保吉(やすきち)はずつと以前からこの店の主人を見知つてゐる。 ずつと以前から、——或はあの海軍の学校へ赴任した当日だつたかも知れない。彼はふとこの店へマツチを一つ買ひにはひつた。店には小さい飾り窓があり、窓の中には大将旗を掲げた軍艦三笠(みかさ)の模型のまはりにキユラソオの壜だのココアの罐だの干(ほ)し葡萄(ぶだう)の箱だのが並べてある。が、軒先に「たばこ」と抜いた赤塗りの看板が出てゐる
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論」1923(大正12)年12月
底本
- 現代日本文學大系 43 芥川龍之介集
- 筑摩書房
- 1968(昭和43)年8月25日