くも |
蜘蛛 |
冒頭文
辻川博士の奇怪な研究室は葉の落ちた欅(けやき)の大木にかこまれて、それらの木と高さを争うように、亭々(ていてい)として地上三十尺あまりにそびえている支柱の上に乗っていた。研究室は直径二間半、高さ一間半ばかりの円筒形で、丸天井をいただき、側面に一定の間隔でおなじ大きさの窓が並んでいた。一年あまり風雨にさらされているので、白亜の壁はところどころ禿げ落ちて鼠色になり、ぜんたいは一見不恰好な灯台か、ふるぼ
文字遣い
新字新仮名
初出
「文学時代」1930(昭和5)年1月号
底本
- 日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎集
- 創元推理文庫、創元社
- 1984(昭和59)年12月21日