くものいろいろ
雲のいろ/\

冒頭文

夜の雲 夏より秋にかけての夜、美しさいふばかり無き雲を見ることあり。都会の人多くは心づかぬなるべし。舟に乗りて灘を行く折、天(そら)暗く水黒くして月星の光り洩れず、舷を打つ浪のみ青白く騒立(さわだ)ちて心細く覚ゆる沖中に、夜は丑三つともおもはるゝ頃、艙上に独り立つて海風の面を吹くがまゝ衣袂(いべい)湿りて重きをも問はず、寝られぬ旅の情を遣らんと詩など吟ずる時、いなづま忽として起りて、水天

文字遣い

新字旧仮名

初出

「反省雜誌」1897(明治30)年8月号夏期付録

底本

  • 露伴全集 第二十九卷
  • 岩波書店
  • 1954(昭和29)年12月4日