ぐじんのどく
愚人の毒

冒頭文

1 ここは××署の訊問室(じんもんしつ)である。 生ぬるい風が思い出したように、街路の塵埃(ほこり)を運び込むほかには、開け放たれた窓の効能の少しもあらわれぬ真夏の午後である。いまにも、柱時計が止まりはしないかと思われる暑さをものともせず、三人の洋服を着た紳士が一つの机の片側に並んで、ときどき扇を使いながら、やがて入ってくるはずの人を待っていた。 向かっていちばん左に陣取

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1926(大正15)年9月号

底本

  • 大雷雨夜の殺人 他8編
  • 春陽文庫、春陽堂書店
  • 1995(平成7)年2月25日