かにこうせん |
蟹工船 |
冒頭文
一 「おい地獄さ行(え)ぐんだで!」 二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛(かたつむり)が背のびをしたように延びて、海を抱(かか)え込んでいる函館(はこだて)の街を見ていた。——漁夫は指元まで吸いつくした煙草(たばこ)を唾(つば)と一緒に捨てた。巻煙草はおどけたように、色々にひっくりかえって、高い船腹(サイド)をすれずれに落ちて行った。彼は身体(からだ)一杯酒臭かった。
文字遣い
新字新仮名
初出
「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号
底本
- 蟹工船・党生活者
- 新潮文庫、新潮社
- 1953(昭和28)年6月28日、1968(昭和43)年5月30日32刷改版