じゅうまんごくのかいだん |
十万石の怪談 |
冒頭文
一 燐(りん)の火だ! さながらに青白く燃えている燐の火を思わすような月光である。——書院の障子いちめんにその月光が青白くさんさんとふりそそいで、ぞおっと襟首(えりくび)が寒(さ)む気(け)立つような夜だった。 そよとの風もない……。 ことりとの音もない。 二本松城十万石が、不気味に冴(さ)えたその月の光りの中に、溶(と)け込んで了(しま)ったような静
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論 二月号」1931(昭和6)年
底本
- 小笠原壱岐守
- 講談社大衆文学館文庫、講談社
- 1997(平成9)年2月20日