しろ

冒頭文

一 ある春の午(ひる)過ぎです。白(しろ)と云う犬は土を嗅(か)ぎ嗅ぎ、静かな往来を歩いていました。狭い往来の両側にはずっと芽をふいた生垣(いけがき)が続き、そのまた生垣の間(あいだ)にはちらほら桜なども咲いています。白は生垣に沿いながら、ふとある横町(よこちょう)へ曲りました。が、そちらへ曲ったと思うと、さもびっくりしたように、突然立ち止ってしまいました。 それも無理はありま

文字遣い

新字新仮名

初出

「女性改造」1923(大正12)年8月

底本

  • 芥川龍之介全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年2月24日