アグニのかみ
アグニの神

冒頭文

一 支那の上海(シヤンハイ)の或町です。昼でも薄暗い或家の二階に、人相の悪い印度(インド)人の婆さんが一人、商人らしい一人の亜米利加(アメリカ)人と何か頻(しきり)に話し合つてゐました。 「実は今度もお婆さんに、占(うらな)ひを頼みに来たのだがね、——」 亜米利加人はさう言ひながら、新しい煙草(たばこ)へ火をつけました。 「占ひですか? 占ひは当分見ないことにしましたよ。」

文字遣い

新字旧仮名

初出

「赤い鳥」1921(大正10)年1、2月

底本

  • 現代日本文學大系 43 芥川龍之介集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年8月25日