そうせきさんぼうのあき
漱石山房の秋

冒頭文

夜寒(よさむ)の細い往来(わうらい)を爪先上(つまさきあが)りに上(あが)つて行(ゆ)くと、古ぼけた板屋根の門の前へ出る。門には電灯がともつてゐるが、柱に掲げた標札の如きは、殆(ほとん)ど有無(うむ)さへも判然しない。門をくぐると砂利(じやり)が敷いてあつて、その又砂利の上には庭樹の落葉が紛々(ふんぷん)として乱れてゐる。 砂利と落葉とを踏んで玄関へ来ると、これも亦(また)古ぼけた格子戸

文字遣い

新字旧仮名

初出

「大阪毎日新聞」1920(大正9)年1月

底本

  • 芥川龍之介作品集 第三巻
  • 昭和出版社
  • 1965(昭和40)年12月20日