すさのおのみこと
素戔嗚尊

冒頭文

一 高天原(たかまがはら)の国も春になった。 今は四方(よも)の山々を見渡しても、雪の残っている峰は一つもなかった。牛馬の遊んでいる草原(くさはら)は一面に仄(ほの)かな緑をなすって、その裾(すそ)を流れて行く天(あめ)の安河(やすかわ)の水の光も、いつか何となく人懐(ひとなつか)しい暖みを湛(たた)えているようであった。ましてその河下(かわしも)にある部落には、もう燕(つばく

文字遣い

新字新仮名

初出

「大阪毎日新聞 夕刊」1920(大正9)年3月~6月

底本

  • 芥川龍之介全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年12月1日