もんもんにっき
悶悶日記

冒頭文

月 日。 郵便受箱に、生きている蛇(へび)を投げ入れていった人がある。憤怒。日に二十度、わが家の郵便受箱を覗(のぞ)き込む売れない作家を、嘲(あざけ)っている人の為(な)せる仕業にちがいない。気色あしくなり、終日、臥床。 月 日。 苦悩を売物にするな、と知人よりの書簡あり。 月 日。 工合いわるし。血痰しきり。ふるさとへ告げやれども、信じて呉(く)れない様子である。

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸」1936(昭和11)年6月1日発行

底本

  • 太宰治全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年6月27日