しあんのはいぼく
思案の敗北

冒頭文

ほんとうのことは、あの世で言え、という言葉がある。まことの愛の実証は、この世の、人と人との仲に於いては、ついに、それと指定できないものなのかもしれない。人は、人を愛することなど、とても、できない相談ではないのか。神のみ、よく愛し得る。まことか? みなよくわかる。君の、わびしさ、みなよくわかる。これも、私の傲慢(ごうまん)の故であろうか。何も言えない。 中谷孝雄氏の「春の絵巻」出

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸」1937(昭和12)年12月1日発行

底本

  • 太宰治全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年6月27日