いっぽぜんしんにほたいきゃく |
一歩前進二歩退却 |
冒頭文
日本だけではないようである。また、文学だけではないようである。作品の面白さよりも、その作家の態度が、まず気がかりになる。その作家の人間を、弱さを、嗅(か)ぎつけなければ承知できない。作品を、作家から離れた署名なしの一個の生き物として独立させては呉(く)れない。三人姉妹を読みながらも、その三人の若い女の陰に、ほろにがく笑っているチエホフの顔を意識している。この鑑賞の仕方は、頭のよさであり、鋭さである
文字遣い
新字新仮名
初出
「文筆」1938(昭和13)年8月1日発行
底本
- 太宰治全集10
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1989(平成元)年6月27日