ちよこ
千世子

冒頭文

(一) 一足門の外に出ればもう田があきるまで見渡たせるほど田舎めいた何の変化もない、極うすい水色の様な空気の山の中に千世子の一家はもう二十年近く住んで居る。子煩悩な父親、理性的な母親は二人ながら道徳の軌道を歩みはずすまいとして神経質になって居るほどで又、それをするほど非常識でも感情的でもない。両親ともに書も歌や詩や文も達者で、父親は彫刻まで上手に若いうちはし、人にも見せられるスケッチさえもっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

底本

  • 宮本百合子全集 第二十八巻(習作一)
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年11月25日