ちよこ(に) |
千世子(二) |
冒頭文
(一) 外はしとしとと茅葦には音もなく小雨がして居る。 千世子は何だか重い考える事のありそうな気持になってうるんだ様な木の葉の色や花の輝きをわけもなく見て居た。ピショ! ピショ! と落ちる雨だれの音を五月蠅く思いながら久しく手紙を出さなかった大森の親しい友達の処へ手紙を書き初めた。 珍らしく巻紙へ細い字で書き続けた。 蝶が大変少ない処だとか。 魚の不愉快な臭い
文字遣い
新字新仮名
初出
「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日
底本
- 宮本百合子全集 第二十八巻(習作一)
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年11月25日