くろいろばとしろいやぎ
黒い驢馬と白い山羊

冒頭文

八月の十五日は、晴れた夜が多いのに、九月の十五夜は、いつも曇り勝だ。 今年は珍しく快晴で、令子も縁側から月見をした。 澄み輝き大らかな月が、ポプラーの梢の上にのぼると、月に浮かされた向う通りの家の書生達が大勢屋根へ出ていろいろな唄を唱った。令子の庭には萩が咲いて居て、やや色づきかけた石榴の実をすべった月かげが地にある。書生達の唄は響いて一種の狸囃子であった。 そのうち

文字遣い

新字新仮名

初出

「創作時代」1927(昭和2)年11月号

底本

  • 宮本百合子全集 第三十巻
  • 新日本出版社
  • 1986(昭和61)年3月20日