てんぐ |
天狗 |
冒頭文
暑い時に、ふいと思い出すのは猿簑(さるみの)の中にある「夏の月」である。 市中(いちなか)は物のにほひや夏の月 凡兆 いい句である。感覚の表現が正確である。私は漁師まちを思い出す。人によっては、神田神保町あたりを思い浮べたり、あるいは八丁堀の夜店などを思い出したり、それは、さまざまであろうが、何を思い浮べたってよい。自分の過去の或る夏の一夜が、ありありとよみがえって来るから不
文字遣い
新字新仮名
初出
「みつこし」1942(昭和17)年9月1日発行
底本
- 太宰治全集10
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1989(平成元)年6月27日