しゅっぱん |
出帆 |
冒頭文
成瀬(なるせ)君 君に別れてから、もう一月(ひとつき)の余になる。早いものだ。この分では、存外容易に、君と僕らとを隔てる五、六年が、すぎ去ってしまうかもしれない。 君が横浜を出帆した日、銅鑼(どら)が鳴って、見送りに来た連中が、皆、梯子(はしご)伝いに、船から波止場(はとば)へおりると、僕はジョオンズといっしょになった。もっとも、さっき甲板(かんぱん)ではちょいと姿を見かけたが
文字遣い
新字新仮名
初出
「新思潮」1916(大正5)年10月
底本
- 羅生門・鼻・芋粥
- 角川文庫、角川書店
- 1950(昭和25)年10月20日