あすかでら |
飛鳥寺 |
冒頭文
私が飛鳥の里に來たのは、秋も半ばを過ぎて、そこらの雜木林は金のやうに黄いろく光つてゐた。つい門先の地面を仕切つた、猫の額ほどの畑には、蕎麥の花が白くこぼれてゐた。纖細な、薄紅い鷽(うそ)の脛のやうな莖が裾をからげたままで、寒さうに立つてゐる。程近い飛鳥神社の木立は、まばらに透いて見え、背伸びをすると、耳無し山が寒さにかじけたやうに背を圓めて、つつ伏してゐるのがついそこに見られる。 見窄(
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「三田文学」1911(明治44)年3月
底本
- 現代日本紀行文学全集 西日本編
- ほるぷ出版
- 1976(昭和51)年8月1日