きこうじ |
喜光寺 |
冒頭文
佐紀の村外れから、郡山街道について南へ下ると、路の右手に當つて、熟れかかつた麥の穗並の上に、ぬつとした喜光寺の屋根が見える。 立停つて疲れたやうな屋根の勾配を見てゐると、これまでの旅につひぞ覺えのない寂しい心持になつて來る、どうしたといふのであらう。——今朝奈良を發つて、枚方道を法華寺の邊りで振り返つて見た東大寺の眺めは、譬へやうもない宏大なものだつたが、今の心持はそれとも違ふ。いつだつ
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「新小説」1908(明治41)年10月
底本
- 現代日本紀行文学全集 西日本編
- ほるぷ出版
- 1976(昭和51)年8月1日