くめのせんにん |
久米の仙人 |
冒頭文
私がじめじめした雜木の下路を通りながら、久米寺の境内へ入つて來たのは、午後の四時頃であつた。 善無畏が留錫中初めて建てたといふ、恰好のいい多寶塔をちらと振仰ぎながら、私は仙人堂へ急いだ。久米仙人の木像を見ようといふのだ。仙人は埃だらけの堂のなかで、相變らず婦人でも抱かうとするやうな、妙な手つきをして龕のなかに納まつてゐた。 私は久米の仙人が好きだ。好きだといつて、何も交際ぶりが
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「三田文学」1911(明治44)年3月
底本
- 現代日本紀行文学全集 西日本編
- ほるぷ出版
- 1976(昭和51)年8月1日