さいだいじのぎげいてんにょ
西大寺の伎芸天女

冒頭文

私は西大寺をたづねて、一わたり愛染堂の寶物を見終つた。 「寶物はもうこれでお終ひどす。」 と、ぶつきら棒に言ひすてたまま、年つ喰ひの、ちんちくりんな西大寺の小僧は、先へ立つてさつと廊下へ出掛けて行つたが、つとまた後がへりをして、 「あ、忘れとりました。此處におゐでやすのが、伎藝天女さんどす。」 薄闇い片隅に向き直つて、小生意氣に大人のやうにぐつと顎をしやくつて見せる。 そ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新小説」1908(明治41)年10月

底本

  • 現代日本紀行文学全集 西日本編
  • ほるぷ出版
  • 1976(昭和51)年8月1日