一 或春の日暮です。 唐の都洛陽(らくやう)の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。 若者は名は杜子春(とししゆん)といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を費(つか)ひ尽(つく)して、その日の暮しにも困る位、憐(あはれ)な身分になつてゐるのです。 何しろその頃洛陽といへば、天下に並ぶもののない、繁昌を極めた都ですから、往来(わうらい)