ひとくれのつち
一塊の土

冒頭文

お住(すみ)の倅(せがれ)に死別れたのは茶摘みのはじまる時候だつた。倅の仁太郎(にたらう)は足かけ八年、腰ぬけ同様に床に就いてゐた。かう云ふ倅の死んだことは「後生(ごしやう)よし」と云はれるお住にも、悲しいとばかりは限らなかつた。お住は仁太郎の棺の前へ一本線香を手向(たむ)けた時には、兎(と)に角(かく)朝比奈の切通しか何かをやつと通り抜けたやうな気がしてゐた。 仁太郎の葬式をすました後

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮」1924(大正13)年1月

底本

  • 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年8月25日